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魚心あれば水心

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魚心あれば水心あり:魚と水は互いに相手を欠くことのできない密接な間柄であることに例え、相手が好意を持てばこちらもそれに応ずる用意があることにいう(広辞苑)

戦争を記録する(8)-靖国見学(2)-

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TITLE:靖国神社に異議あり—「神」となった三人の兄へ
Written by:HIGUCHI Tokuzo,
Published by:DOJIDAISHA
Price:¥1995
ISBN:4886835546

前の記事に続く。

見所説明のあと、ゲストの樋口篤三さんの話を聞いた。6人兄弟の6番目で、3人の兄が靖国にいるという。



ご本人も少年兵で出征しておられるこの方、80歳をとうに過ぎているとは思えないかくしゃくぶり。加えて「今抗がん剤の治療中なので見学会には参加しないで失礼するがお許しを」とおっしゃる。とてもそうは見えなかった。
こういう言い方が失礼にあたることは重々承知しているが、つい言いたくなる気持ちをわかってお許しいただきたい。

私は、もう10年近く前になるが、地元(世田谷)で社会教育講座の企画委員をしていたことがある。その時にこのくらいの年齢の男性を大勢知りあいになったのだが、だいたい男性は75歳を過ぎてくるとどんなに元気だった人でもぐっと老け込むものだと実感した。(ちなみにこの経験則では、女性は80歳を過ぎないと老け込まない。)

樋口さんのかくしゃくぶりはちょっとすごい、と思うとともに、ニューギニアのジャングルをさまよった経験を持つ、私が中学・高校とお世話になった生物学の恩師を思い出した。今かくしゃくとできない人は、多分ニューギニアから生還できなかったのだろうな。

さてこの樋口さん、経歴はばりばりの左系活動家なのだが、30分ほどの話を聞く限りでは、きわめてまともな意見と判断力の持ち主だと感じた。
私には、極端な右から極端な左まで幅広い知人・友人がいるので、言っていることのまともさ(常識的かどうか)と思想的バックグラウンドは実はあまり関係ないことも多いと思っているのだが、話している相手が思想的な偏りを持っているというだけで、相手がまともなことを言っていても全く聞き入れない態度で臨む人がいる。
靖国の議論では特にその傾向を顕著に感じるし、そのような人がこのブログを読むことを大いにあると思ったので、樋口さんの話の中で私がこの人を「まともだ」と思った基準を解説してみる。

樋口さんの靖国批判のポイントは、主に以下の2点であった。

1)靖国は、「戦陣訓」と、その思想を支える建物である。

戦陣訓とは、有名な「生きて虜囚の辱を受けず」というやつである。捕虜になってはいけないという思想を徹底させたため、家族がお互いに殺しあったり、サイパン島玉砕のように崖から飛び降りたりという自殺で、軍人だけでなく、大勢の民間人も亡くなった。降伏を封じられた南方戦線で大量の餓死者が出たのも、戦陣訓の影響が大きい。(ニューギニアの戦死者の9割が餓死だったと言われる。恩師はよく助かったものである。)
もし降伏していれば、戦死者の半分は助かっていただろうと言われている。靖国に祭られている戦死者だけ(祭られていない戦死者はその10倍以上いる、)でも210万人、半分なら105万人だ。
戦陣訓は、日中戦争が長引き、軍紀が乱れがちになったことから、当時の東条英機陸軍大臣によって公布された。最も戦争責任が大きいのは東条英機、と言われても仕方がないだろう。
自分の兄を死に追いやった人物と兄が一緒に祭られているのはどう考えても納得できない。

2)靖国賛成者の「文句を言っているのは中国と韓国だけ」、と開き直る無神経。

大東亜戦争は帝国主義対帝国主義の覇権戦争だったことは間違いないが、それで一番迷惑したのは、頼んでもいないのにその覇権の対象にされた国である。一番迷惑を被った国が「迷惑だった」というのは当然だし、特に韓国は日清、日露、大東亜すべての戦争で国を荒らされているのだから、「また何かされるのでは」と靖国参拝に敏感に反応するのは当たり前ではないのか。
そのような反応に対して「二国が言っているだけで大勢が反対している訳ではない」とうそぶくということ自体に危険なものを感じる。しかもそれを「自由の戦争」「解放の戦争」と言い換えてしまえば、ますます中国や韓国が日本を疑うようになって当然である。
自分が60年も「靖国神社に反対」し続けているのは、どんなに長い年月が経っても死んだ兄たちが忘れられないからである。戦争で失われた家族が残された人の中に生きているからこそ、このような反発が起こるので、それは人間として当たり前の反応である。南京虐殺があったとかなかったとか、正しい被害者数がわからないとか誇張されているとかいう議論によって、人間としての当たり前の感情を封じようとしている靖国神社擁護論は全く間違っている。


まともではないだろうか。

他にもいろいろな論点が紹介されたが、長くなってしまうので省く。樋口さんの主張は、おそらく著書に詳しく書いてあるだろうし、靖国神社に対する批判や議論、解説本もいくつか紹介された。
特に入門者向けと言われたのは「すっきりわかる靖国神社」(小学館)と「靖国神社」(岩波新書)。私もそのうち読んでみるつもりだ。

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by fishmind | 2006-09-16 07:52 | 戦争と災害の話